緊急事態宣言とカール・シュミット


緊急事態宣言とカール・シュミット

 カール・シュミットにとって、思想的な状況を無視してでも「決断」を下せる独裁者は、どのような国家にも必要であった。そういう立場から、ヒットラーの独裁を支持したシュミットは「友敵関係」を政治の本質とみなし、特に「例外事態」=「緊急事態」の理論を打ち出して、近代「国家」の「暴力性」を指摘した。このことで左右を問わず、多くの政治学者・社会学者に影響を及ぼしている。彼は次のような主張をしている。
 決定的な行動をとることが可能な政府を作るには、国家がなんらかの独裁的な側面を含む必要がある。Ausnahmezustandというドイツ語は、「例外的」なことを意味しているけれども、「緊急事態」と翻訳するのがもっとも自然である。シュミットにとって、主権とは、例外的な緊急事態を宣告できることを意味している。このシュミットの「緊急事態」の定義の前提には、「純粋」な「暴力」が国家主権の本質だという考え方がある。彼は人権を含む一切の権利を無視する暴力を国家権力の本質とみなし、ヒットラーも国民の権利を自ら定義し、自らが定義を下した「権利」を守った。この見解は、近世西欧における国家の形に対応している。ウェストファリア条約は、三十年戦争下で、教会・封建領主・中世都市の軍事力・警察力を分散していた結果、西欧一帯のテロ暴力の蔓延を終結させるために、国家(国王)に一切の合法的な暴力の独占をする「合法的な殺人」制度としての近代主権国家を作った。ウェストファリア条約以降の国家(国王)は、啓蒙思想のもとで、民主主義と人権の台頭に応えて次第に民主主義と人権を守るようになった。しかし、「緊急事態」は、こうして常識化した人権と民主主義の化粧をはぎとって、純粋な権力(暴力)国家を可視化することを主張したことで、カール・シュミットは今日でも注目を引いている。「緊急事態」宣言はそのような独裁国家の正当性を主張する際に、不可欠な概念になっている。